【名物企画】たつこた鼎談 ゲスト:細野香里氏

世界的米文学者の巽孝之氏、SF&ファンタジー評論家の小谷真理氏のお二人がゲストを招いて討議する名物企画「たつこた鼎談」。今回のゲストは巽ゼミOGで、現在は慶應義塾大学で教鞭を取られている、米文学者の細野香里氏。今年のテーマ"Unmasked"を巡って、パンデミックを振り返り、「赤死病の仮面」「マスクとロマン」「マイケル・ジャクソン」、そして「ゴシックとは何か?」など盛りだくさんの内容をお届けします!

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小谷:それからITの格差が大学によってけっこう激しい。当時私は何件か非常勤をやってたんですけど、例えば明治大学は自分のところにサーバーがあるから、突然Zoomになっても全然大丈夫なんですよね、自分のところで処理できる。っていうか、それまで使い方がよくわからなかったシステムがいきなり役に立った。

細野:コロナ禍以前からすでにかなり充実した独自のシステムがありましたよね。

細野香里先生

巽:明治は相当いいシステム持ってるみたい。

小谷:だから何の心配もなく移行できるし、むしろIT化がスムーズにすすんだところが、女子大とかそれから国公立系などのお金のないところは自分のサーバーが無いんです。ですので、みんなでGoogleを使ったり、外部に依頼をしたり。女子大はしばらく経って、専用の会社のを導入したんですよね。

細野:manabaですよね。非常勤を掛け持ちする側からすると、どの大学もmanabaなどの同じシステムも使ってくれた方が、使い方を覚える数が減ってありがたいというのが本音です(笑)

小谷:というわけで、学校ごとに学ばなきゃいけなかった。でも初めてGoogleのシステムを使って、スプレッドシートからエクセルの方に変換するとかね、今まで全然使ったことなかったんですけど。2020年の間は、もう大学のITシステムを学ぶのに必死になっていた感じです。今まで執筆に忙しいあまり時間なくてできてなかったインフラの情報処理ができるようになったのは大きかったですし。私はオタクなのでやっぱり対面に出かけるよりは、自分の家でオンデマンドでやる方が圧倒的に楽なので。ライブよりスタジオミュージシャン型なのか。

巽:それなのに、なぜか最近、キャンプに凝ってる。

小谷:そうなんです。出かけられないから、その代わりにYouTube、特に釣りの動画とキャンプ動画にハマったんです。自分でやったことないのに、妙になんか釣りのことに詳しくなったんですね。堤防ではどうやって釣り上げる、イカをどうやって釣り上げるっていうことを。釣りの動画って釣れない間はずっといろいろなMCなんですよ。やってる人が面白いとずっとそれつけっぱなしにして。釣るだけじゃなくて、彼ら食べるんですよ。それで、それまで魚をさばいたことがなかったのに、さばき方にすごい詳しくなりまして。うちでコロナ患者が1名でたんですよね。預かってる子がちょっとコロナにかかって。

巽:我々は1回もかかってないんだけどね。

小谷:それでコロナにかかると保健所との連携で隔離システムに連れていかれるんです。けど、隔離システムがいっぱいだと自宅待機ってのが数日間続くんですね。その間、自宅で事実上自室隔離。ご飯の受け渡しは廊下。段取りとしては、タケノコ用の大鍋があるんですけど、まずお湯をグラグラと沸かしておくんです。それで私が凄いマスクをつけてですね、ひどい時にはこうゴミ袋をすっぽりかぶる。ゴミ袋は廊下に貼り付けたりしておく。で廊下に出された食器をお盆ごともってきて、グラグラと煮えたぎったお湯にお盆ごとざあっとあける。ウイルスだから作りが単純で表面タンパク質なんで弱いんですよ。細菌だと煮沸消毒15分以上煮ないと危ないんですけど、ウイルスっていうのは50度以上で一気に死にますから。とにかくざあっとあけてふた締めて。それでよし死んだ!念のために5分煮る、みたいな、そういう感じでやってたんですね。彼の使用したトイレや廊下は全部消毒をして。それで彼は都から派遣された白い車でドナドナみたいに、ホテルにいった。いや、もう私あの時アウトだと思ってた、この人、アメリカ行かなきゃいけないのにと。そういうふうに自宅でコロナ患者が出てしまうとですね、我々も濃厚接触者なので、買い物にいけなくなっちゃうんですよね。それで冷蔵庫の中を見ると、どんどん食料が減っていくという初めての経験をしました。そしたらですね、すぐに察知した人が現れて食べ物を送ってくれた。あとね、ウェブ通販ですよ。地方もこういうコロナの状況になっちゃってシステム開発したのか、それともその前からあったのか知りませんけど、異様に通販システムが発達していて。野菜とかね、九州に注文。から送ってもらって。佐渡からその朝取れた魚を注文。送ってもらったらですね、2キロぐらい魚が届いたんです。が、全部それを自分でさばかないといけなくて。

巽:なんか板前みたいになってるのね。

小谷:はい。それでもうガンガンさばきましたよ、そこで大いに役に立ったのが、釣りやキャンプの動画。料理系ユーチューバーの方のもガンガン見るようになった。料理の腕前が上がりました(笑)。生活が変わったってもう1つ言っとくと、友達に会えなかったでしょ。ずっと閉じ込められて。ところがですね、SFのオタクっていうのは凄まじくて。ズームが使えるとなると、すぐ会いたいと思って、会うわけですよ。ズーム宴会っていうのが発足して。さらに言うなら、私は同世代のおばさんたちと毎週土曜日の夜10時からおば会が始まってですね。つまりズーム例会っていうのをやってたんですよね、これがすごい楽しくて。ウェブ井戸端会議ですよ。好きな飲み物を各自用意して自室で、もうズバズバ言うおばさんたちがウェブに集まって。通常、そういう例会って、例えば東京地区でやったら東京の近くに住んでる人しか来れない。ところが、ズームおば会はですね、アメリカ、九州、三重県からもアクセスできるわけです。普段会えない人ととても仲良くなるという、オフ会とは逆のことが起こって。それも生活の大変化っていう感じでしたね。それで今コロナ明けでアンマスクドになったんで、じゃあそのおば会がなくなるかといったら全然なくならない。我々がアメリカに行っても毎週やってるんです、ちゃんと時差を考えて。

巽:コロナ禍以前の大学関係の会議って、ほんとうにちょっとしたことを決めるのにも、いちいち集まってたんですよね。そのためにみんなの時間を神経質に合わせなきゃならないってことがあったけど、コロナ禍以後には、そんなちょっとしたことだったらズームで良いという雰囲気になってきた。対面でディスカッションしないといけないことだけ、ちゃんと会議をやればいいかもしれない。その意味ではズームの活用法が導入されたというのは、まさにコロナ禍以後に実現したニューノーマルですよね。

佐藤:地方で学会を開催する時に、午前中に会議で午後大会があるというと、前日から入らなきゃいけないんですけど、もう今はズームでできるんですよね。学会の役員会議だけは別の日にオンライン。大会だけやればいいっていうかたちで。ソロー学会なども大会本体はやっぱりこれからも対面なんですけど、役員会は全部オンラインでやっちゃいます。それはすごく楽になりました。

巽:そうそう。私の通信教育部の教え子たちっていうのは、毎年、私の誕生会をやってくれてたんですけど、コロナ禍になってからはズームで続行して事前にワインとおつまみを送ってくれた。

佐藤:懇親会も開いてくれるんですよね。通信の人たち。私もオンラインで一度講演したんですけどね。以前は対面でやってたそうなんですけど。

ズームオンライン飲み会をと提案されたんですけど、色々仕事もそのあとにあったのでお酒は飲みませんと言ったら、じゃあお茶菓子を送りますってことで。そしたらダンボールいっぱいに!フードファイターじゃないかってくらい(笑)。

佐藤光重先生

巽:面倒見いいんですよそっか、じゃあ佐藤君、いわゆる通信の派遣は?

佐藤:まだやったことないですね。

巽:あれはね、結構いろんな地方に行くんですよ。アメリカ文学慶友会はアメリカ文学に特化してるので、別にどこでやってもいいんだけど、私の場合は大阪慶友会とか、広島慶友会、長野慶友会、岐阜慶友会、それからあと大分慶友会にも行ったな。講演を二日間やって、必ず懇親会が付く。結構あちこち行けるのが楽しい。

佐藤:通信教育の仕事は結構ありますよね。

巽:通信の卒論指導だね。

佐藤:学部も大学院も通信もフル活動ですよ。これが慶應の忙しさなんだと思って。

小谷:そういう意味では、今までの生活は意外に対面で縛られてた。ちょっと変わったかなと思うと同時に、対面で楽しかったことがなくなっちゃうっていうこともあったかな。なんか無駄を省くみたいな感じでカットされちゃうとかね。

ちょうど先週北海道に行ったんですけど、すすきのとか、すごい賑やかで。今ちょうど観光シーズンでいい時期。それで観光客が本当にたくさんいたんですよね。ものすごいにぎわってる。それで乗ったタクシーににぎわってますねってよかったですねって言ったら、タクシーのおっちゃん、涙ぐんでる。

巽:我々が前に小樽に行ったのは20年以上前だけど、一変しちゃってまるで原宿でしたね。

小谷:華やかでしたね。修学旅行の高校生がいっぱい来てて。確かに、ここ原宿か、とか思ってしまいましたが、でもみんなすごいうれしそうな顔して楽しんでて。地元の人の喜び方も全然違う。

巽:日本アメリカ文学会北海道支部の6月例会で講演に行ったんだけど、ハイブリッドでやっていました。札幌市立大学のサテライト・キャンパスっていうのが札幌駅の近くにあって、そこが会場。慶應義塾にも大阪シティキャンパスがあるのと同じで。

小谷:複数の学会を掛け持ちできるって面白いよね。こっちではアメリカ文学会をやって、こっち側では何ちゃら文学会。こうなんかあっち行ったりしてる、見てるとあって。学会を掛け持ちしてるのを見た時はびっくりしました。

巽:ズーム時代には、そうせざるをえなかったことがありますね。

小谷:多元宇宙的な感覚だなと。

佐藤:今慶應だと学部に出張を届けて、オンライン参加でさえこういう学会に出ましたと逐一報告してる人もいらっしゃるんです。そういうふうに複数出てしまうと物理的に不可能なこともあるんだけど、同じ時間に出張することだってできなくもない。

小谷:『エヴァンゲリオン』でもネルフが、人がいない状態で会議しているのがあって。私は「あれってどういう意味があるのかな?」って見ながら思ってたんですね。

ゼーレ会議(画像は株式会社カラー khara inc.official【公式】ダイジェスト これまでの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2:25)から)https://www.youtube.com/watch?v=uuFwvzLRF-o&t=145s

巽:モニターだけで。

小谷:ああいう終末的な世界になっちゃって、いわゆる肉体がそこへ行けない場合の会議はありなんだって。なるほどなあと思って、ようやくあの場面が実体験としてよく分かった。

例えば中東とかに三浦健太郎の『ベルセルク』が好きなファンがいて、私が書いた新聞記事をウェブで見て私のツィッター見に来ちゃう、ということが実際あるわけで。私が一番これはすごいと驚愕したのは、シリア内戦だったかな、クルド女性防衛部隊がその部隊の様子をツイッターでずっと報道していたことですね。初めて私はSNSってすごいなって思った。テレビで報道されない生の映像をツイッターで見ることができちゃって。コロナになってみると、一般人が簡単に扱える身近なメディアのリアリティって、わかってるつもりだったけど、実体験としてはやっぱりわかってなかった。

巽:それが21世紀です。

小谷:21世紀だね、本当に。

巽:20世紀にはなかったことです。

小谷:そうですね。

それと、やっぱり都内に居るとリスクが大きいということで、疎開と言いますか、八ヶ岳の別荘に行ったんです。

佐藤:そこではマスクしてました?

小谷:厳重です。そこにいる別荘の人たちは、本当に買い物以外じゃ絶対外出しないで、閉じこもっておられました。あんまり村の人と顔合わせないという、そういう暮らし方をしてて。特にお年寄りの方ですよね、高齢者の方はもう感染するとアウトなので。身を潜めていた。

巽:2021年の段階では、うちの別荘のある富士見町は感染者はーー

小谷:ゼロだった。でも第何波の時かはちょっと忘れちゃったんだけど、諏訪でね、何人か感染者が出始めて。それで諏訪から高度の高い方へ、こう上がってきて、それで町でも出ちゃったんだよね。そのときのね、村のピリピリ感がね。村社会の凄さってありましたね。元々避難してから10日間ぐらいは隣の人も挨拶に来なかったんですね、いやそうみんな家の中にいるかんじで。

巽:みんな家の中にこもってるから、家そのものがマスク。

小谷:今考えるとすごい厳戒体制でしたね。

巽:今からふりかえると、信じられない。異世界にいたみたい。

小谷:だからIT関係と、どうやって感染を防いでいたかっていう体験かな。

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