佐藤先生への80の質問  ~第1弾~

パニカメ編集委員が佐藤先生に聞く、好きなものや大切にしていること、そして自分自身について-80の質問による単独インタビュー第1弾!

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1. 名前…佐藤光重

2. 職業…大学教授

3. 身長…165 くらい (もうちょっとあるけど猫背だからこれくらいに見えるでしょう。)

4. 年齢…55 歳

5. 出身…神奈川出身

6. 自分の性格を一言で…のんき、気長、おおらか、のんびり(鈍感ということでしょう)

7.大学の教授を目指した理由

教授を目指す、という言い方には語弊があるね。文学研究者の多くはおそらく教授になることを目指してこの道に入ってはいないと思うよ(たぶん)。まずは研究したいことがありそれを追求し、教育への使命感(これ教えてみたいなあ、という気持ち)も培われていく。教壇に立とうと思うのはそれからではないでしょうか。ちなみによく学生は大学の教員をなにかと教授と言いますけれど助教も講師もとびきり優秀な人たちが大勢います。私はアンケートで職業欄には大学教授なんて書きません。会社員ですね。慶應は社中という言葉を使いますし。メールでも先生、と呼んでくれればそれで充分だと思いますけどね、私は。もちろん、教授という肩書がつくのは昇進人事の労を執ってくださった先生方がいる訳なのでその苦労を買ってくださった方々には足を向けて寝られません。

8. アメリカ文学を学んだきっかけ

なんであれ物事の起源に対する関心を持つというのは大事なことだと思うんです。大学に入った頃の自分のアメリカ観はずいぶんと浅薄なもの(ハリウッド、ハンバーガー、ハーバード等々の文化的イコンが象徴するもの)でしたが大学に入っていろいろと文献を読んだり授業を受けたりしていると、例えばモノとカネにあふれているようなアメリカももともとの厳格で原理主義的なピューリタンの思想が姿を変えていて、見えないところで実はいろんな影響を及ぼしている。そういう歴史的な見方が分かってきて、とても面白かったんだね。

植民地時代からの歴史が続く、現在のボストンの様子 (cytisによるPixabayからの画像)

9. 卒論の題材

十七世紀のピューリタンの女性詩人アン・ブラッドストリートの詩に当時の家庭観や宗教倫理と葛藤する詩人の心理がどう反映されているのかということでした。そういうドメスティックなところに関心があって。子供を産み育てることが神聖な勤めであると説き続けられた当時の女性は体を壊し、命を削ることさえしばしばで、妻に先立たれた夫はというと今度は再婚することが聖なる務めとされたのです。女性にとり出産も当時は死と隣り合わせのことでブラッドストリートには夫に遺書の体裁で書いた詩がありこれを分析しました。そのため大学院に入った頃、先輩や先生からは、まだ独身なのに後妻の研究をしているとからかわれることもありましたよ(笑い)

ピューリタンは劇場を封鎖したり彫刻や絵画を破壊したりと芸術には不寛容であったけども、芸術って粘り強くて廃れない。ピューリタンも詩を書いたり、お互いの原稿を読みあったりといった文学趣味がありかなりハイレベルの教養を前提として文通していたこともわかりました。

10. 過去に戻れる or 未来へ行くか

未来は少し怖い、例えば核や気候変動といったことがあるからね。過去は知りたいことがたくさんあります。もっとも分からないからこそ調べる面白さが生まれるのでしょう。十七世紀のピューリタンのところに行ったら自分などは異教徒として迫害されるから、透明人間のようになって行ってみたいですね(などと架空に架空を重ねるとどうでもいい話になりますが)。自分が研究している人たちがどういう声をしてたとか、電気や水道、ガスがない暮らしってどんな感じだっただろうって想像するのは簡単そうで現代人には難しいでしょう。

John Bunyan, pencil drawing on vellum by Robert White; in the British Museum
Courtesy of the trustees of the British Museum (Britannicaより引用)

11. 宝物

物にあまり執着しないけど、大事にしているものはある。イギリスの詩人ジョン・バニアンの 作品選集で十九世紀に作られた立派な装丁の書籍を持っているんです。大学院の頃に神田のある書店で見つけて、安東伸介先生と雑談の折に私がうっかり学生には少し高価で手が出せないと言ってしまいました。すると先生はおもむろに「君、それはいくらなんだ?研究に必要な書籍に出費を惜しむものではない」と一喝してその購入費をさっと差し出されたのです。わたしが固辞してもジェントルマンですね、出したお金は決してひっこめないんですよ。このような経緯で買っていただいた思い出の品です。ギャンブラーが借金してもギャンブルをするように、研究者は借金しても大事なものは買うんです。

12. 趣味

趣味が仕事のようなものですね。

本を自由に読むこと、そして自然に触れることが好きですね。あまり観光地化されておらず静かで、どちらかというと寂しいようなところに美を感じて妙に魅かれます。あとは貝殻のコレクションでしょうか、海辺には貝殻とか深海生物の形見、星形の模様があるカシパンの殻などが打ち上げられているんですね、それらを集めて。ハナマルユキという美しいタカラガイを拾ったこともあります。 アン・モロー・リンドバーグ『海からの贈り物』の世界ですね。ブラウン大学に滞在していたとき近くにPaper Nautilusという古書店がありました。とても詩的な店名で、オリジナルの栞にもタコブネのイラストが描いてあるのが素敵です。

金坂:本は小さい頃から読まれていたんですか?

佐藤先生:読書に目覚めたのは遅くて小学校高学年の時なんです。国語の授業で芥川龍之介の「トロッコ」や志賀直哉「小僧の神様」を読んだときに、なんとも言えない官能のようなものを覚え陶然とした記憶があり、中学の頃には図書館に通って文学全集を手に取るようになったんです。そこから、古典が好きになった。

 あとはね、高校くらいからクラシック音楽が好きでレコード屋さんにもよく行っていたんです。中学校の時に先生がたまたま 1 冊勧めてくれた本があったんですよね。題名は思い出せないんだけれど、鑑賞に長い時間がかかる音楽や文学を若いころから楽しんだ方がいいと学んだ。分からないなりに聴いていると段々わかるようになってきて、聴くたびに面白くなっていくんです。流行ものはそうはいかないですよね、文学作品も同様です。最初は分からないなりに読んでおく、そして勉強や読書を重ねて分かるようになっていく。この感覚が好きなんです。

金坂:山下さんもクラシック好きじゃなかった?

山下:そうなんです。お気に入りの作曲家っていらっしゃいますか?

佐藤先生:お気に入りの作曲家はバッハで、博士論文(Puritan Baroque)の一部でも言及しました。バロック音楽のポリフォニーが好きでね、バッハ「平均律クラヴィーア曲集」とか「パルティータ」とか。カナダのピアニストはいいですね、独特な演奏をしますけどグレン・グールドや、アンジェラ・ヒューイットの演奏をよく聴きます。モーツァルトやベートーヴェンもよく聴きますよ。通勤途中によく頭に思い浮かんで流れるのはこの二人のメロディーです。それと、なんといってもブルックナーの交響曲。広大な宇宙に誘われるような曲想で、ラヴクラフト的スペースホラーというか、地球外の高度な知的生命体の創作物に触れているような感じがして面白い。

Glenn Gould – Bach, Prelude & Fugue XXII in B-flat minor: Praeludium (OFFICIAL) より
Bruckner: 7. Sinfonie ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Christoph Eschenbach より

金坂:作業中に音楽はお聴きになるんですか?

佐藤先生:調べ物や読書中には聴きません、気が散るので。でも、洗い物やアイロンかけ、洗濯物を畳んでいる時には音楽を聴いたりしますよ。 いや、BBC World Serviceを聞いていることのほうが多いかな?

13.先生のとある1日 

6:30起床、カメの水を替える、プランターの植物の水やりをする
8:00-9:00通勤
10:00-14:00研究室でメールの確認、授業、調べものなど
15:00-16:00お昼 (忙しくてしばしばこの時間になる)
17:00-18:00会議や事務仕事、調べものなど
18:00-帰宅、家事など
1:00 前後就寝(読んでいる本が面白いと2時くらいになることも)
インタビュー中の佐藤先生

14.珈琲派or紅茶派

どちらも好きなんですけど、珈琲寄りですね。

たまたま焙煎の名人が以前住んでいた町にいてですね、その人は注文する銘柄から常連一人一人の好みを推理する名人で客の好みに合わせた焙煎をするんですよ、だから同じ品物でも焙煎が違う。SNSの影響もあって今は超人気店になっていますね。 予約しないと買えなくなってきました。

親も無頓着で私は小2からブラックコーヒーを出されて毎朝飲んでいたんですけど、ずっとインスタントだったんです。ところが中学生の頃に親戚の叔父さんからコーヒーメーカーをもらって衝撃を受けましたね。コーヒーを淹れるところから素晴らしい香りがするところに関心を持っちゃった。高校の頃からたまにね、自分で豆を買って飲んだりしていたんです。カミュ『異邦人』を読んだときもミルクコーヒーというのが何度も出てくるところもなんだかいいんですね。ヘミングウェイ『老人と海』もそうですね。スタインベック「朝めし」のコーヒーなんかは絶品の描き方です。かたや神から与えられた人間の時間を無駄にするということでピューリタンは喫煙を非難し、福澤は愛煙家でありながらやはり儒教的な勤勉さもあってか冗談交じりに「一生の大損を成せり」と『福翁自伝』に記しています(ちなみに遣米使節として渡航中に初めてコーヒーを口にした福澤は「煙臭くて飲むに堪えず」と記している)。わたしは煙草をやりませんがコーヒーには相当な時間を費やしています。でもそれでかえって時間が豊かになった気がします。植民地主義に加担するということでコーヒーを飲まなかったソローがそんな発言を聞いたら「節操のない生き方」(Life without Principle)だと怒ったでしょうが。

金坂:お気に入りの豆はありますか?

佐藤先生:グアテマラ、コスタリカなど中南米産やエチオピア、イエメンなどの香りに個性があって苦味がしっかりしている、ちょっと強めのものがいいですね。

15. 料理

もっぱら洗い物担当で米を炊いたり野菜の皮を剥いたり包丁を研いだりと料理人見習いの段階にとどまっています。

16. 好きな料理

嫌いなものはないので特にないですね。現住所の隣町に三代続いていま四代目が親元で修行をしているいいお寿司屋さんがあるんです。地元の人々に愛されているお店でそういう地縁のある店はすばらしいものですね。あとはしいて言うなら中華やイタリアンが好きなんですけど、年を取ったら脂っこいものが無理になるのかな…。 きちんと手間をかけた漬物と白いご飯がしみじみとおいしく感じることが多くなりました。(もうご隠居ですな)。

17. 健康への気遣い

塩分を過多にとらないようにはしていますね。最近はお腹周りが気になる…。 こういう平凡な回答ばっかりしていて思い出すことがあります。某有名作家の先生と仕事の縁で会食をしたときがあり、しばらく話しているうちにその作家さんがクックと笑いだしたんですよ、「先生、普通のひとですね」って。大学のセンセイとの会話に期待するところがあったのでしょうがわたしはそのイメージではなかったわけですねえ。

18. お昼に食べるもの

学校でお昼を食べるときはお弁当なんです。秋田杉の曲げわっぱをかれこれ20年くらい、ちゃんと手入れして使っている。冷めてもご飯がおいしいんですよお~。

19. 休日にしていること

大学教員というのは研究者一般と同じく平日と休日の区別があいまいで、週末といっても仕事をしないといけないことが多いんです、学校や学会のこととか。例えば学会の事務作業ですね。それから調べものをしたりしますけど、調べものには際限がありません。家族の時間も同様で休みだから家族のために、というよりは職務も家庭の時間も寸暇を惜しんで充実させたいものです

20. 車の運転

こう言っては愛想がありませんが、基本嫌いですね、下手で運転が怖いので。でも田舎の道は好きですよ。アクアラインを渡ると千葉、「県境の長いトンネルを抜けると田舎だった」、なんですけど、富津や館山、千倉、勝浦周辺の涼しい風やひなびた感じが好きです(千葉の方々には失礼に聞こえるかも知れませんが千葉を愛しております)。夏は熊本や大分で過ごすことがおおく、草原に牛はいても人がほとんどいないところに滞在するので用事があるときはなんでも運転してでかけなければなりません。アメリカに滞在していたときもずいぶん運転しました。トラックのようにおおきなRVでカリフォルニア州のキャンプ場を転々と移動したこともあります。

⇒第2弾に続く

Information

・佐藤先生のご経歴:https://satomitsushigezemi.wixsite.com/my-site/professor

・”New” 英米カフェ (第1回)⇒ https://youtu.be/mA6lDFC8l00

2023年7月20日 三田キャンパス研究室棟1階にて

司会:3年金坂

聞き手&編集:金坂、山下

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