[長澤唯史先生インタビュー]『70年代ロックとアメリカの風景:音楽で闘うということ』刊行記念企画

今年の1月に『70年代ロックとアメリカの風景:音楽で闘うということ』を上梓された椙山女学園大学国際コミュニケーション学部教授の長澤唯史先生に4年の榮光太郎がインタビューを敢行!!4時間にも及んだ「音楽愛」に溢れるインタビューをもとにした渾身の記事をご覧ください!!

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巽先生との関わりについて

--大先輩にそう言っていただけると、これから音楽を聴くのがまた楽しくなってきました。先ほど例に挙げたプリンスと言えば巽先生のフェイバリット・ミュージシャンの一人ですが、長澤先生はいつ頃巽先生に出会われたんですか?

長澤:巽先生が博士課程を終えて、法学部の助手としていらっしゃったタイミングですね。当時から巽先生は SFの評論で有名だったんですよ。私はSF研究会に所属していたので、巽先生が慶應にいらっしゃるという事でSF研の定例会にお招きして、そこで初めてお会いしました。その後、私が私が博士過程に行った時期に巽先生が英米文学専攻に移って来られたので、発表などを通じてお話しさせていただく様になりました。

 --長澤先生はSF研究会に所属していらっしゃたんですね!同じくSF研OBの新島進先生は少し下の世代でしょうか?

長澤:そうです。ちょうど私が院生になった頃に学部に入ってきたんですが、SF研の会合などを通して当時から新島先生とも顔見知りでした。 実は彼、ヘビメタ愛好家なんですよ。

--ギターを弾かれるのは存じ上げていましたが、ヘビー・メタルだったとは(笑)

長澤:アニソンとか特撮ソングをヘビメタにアレンジして演奏するバンドを学生時代に組んでいました。確かにSFと繋がる部分もありますが、それ以上に先見の明が凄い。

--巽先生の周りにいらっしゃる方達は本当に面白い人ばかりですよね。

長澤:そういう人がお好きなんだと思います。まず巽先生ご自身が型にハマらない方ですから、 自然と似たタイプの人間が集まってくる。私もその一人。アメリカ文学会で SFについて発表したのは恐らく私が初めてだったんですが、ウィリアム・ギブスンの『ニュー・ロマンサー』に関する発表をした際に、前例に縛られるのではなく「これからはこういう事をどんどんやるべきだ」と凄く褒めてくださった。自身が研究者として超一流なだけでなく、後進の人間を成長させる事に関しても超一流のお方ですね。

--指導では時には厳しい事も仰りますが、その根底には後輩や教え子への愛がありますよね(と信じたい、、!)

ギタリスト談義

--長澤さん自身もギターを弾かれるという事ですが、お気に入りのギターはありますか?

長澤:私はやっぱりジェフ・ベックが好きなのでギブソンの54年モデルのレスポールが特にお気に入りです。ベックと同じオックスブラッドのものとエボニーのモデルを持っています。テレキャスターにギブソンのハムバッカーを載せたベックのコピーモデル、通称テレギブも所有していますね。あとストラトキャスターも、、

--(遮って)これリバースタイプですけど、もしかしてジミヘンモデル、、?

長澤:その通り。ジミ・ヘンドリックスは左利きでしたから右利き用のギターを逆さまにして弦を張って使っていましたけど、これは逆に左利き用ギターを逆さまにしているモデル。なかなかややこしい事をしていますね(笑)

--まさにマニアック(笑)やはりギブソンがお好きなんですね。僕もギブソンのSG Standardを持っていますが、音のパワーが本当に凄い。今の世代ってギブソンを買わないので少数派かもしれません。

長澤:シングルコイルの音が流行っていますから、そもそもハムバッカータイプのギターが本当に売れない状況ですよね。僕らがギターを弾き始めた70年代はエフェクターの性能が良くなかった時代なので、大音量を出さないと歪ませられなかったんです。アンプ直の人も多かった。そういった環境で太い音を出そうとするとやはりレスポール、ハムバッカーのギターが良い。当時、ストラトの音って本当にしょぼかった(笑)

--スティーヴィー・レイ・ヴォーンを聴いてると「ストラトなのに音太いなぁ」といつも感じますが、アマチュアレベルの環境だとそうはいかないかったんですね。当時のギター・キッズ達の事情を知る機会はあまり無いので凄く興味深いです。

長澤:一般家庭でマーシャルフルテンなんて出来ないですから(笑)ハムバッカーのギターはある種ボロが出にくい。それに対してストラトはそのプレイヤーの実力をモロに出しますね。ストラト使いだと当時ディープ・パープルのリッチー・ブラックモアが凄く人気でしたが、個人的にはロリー・ギャラガーが好きだった。彼はほぼアンプ直結でエフェクターなんて使わないんだけど、凄く太くてかっこいい音を出す。あれは真似出来なかったですね。

--先ほど挙げたスティーヴィー・レイ・ヴォーンもそうですけど、彼らの音圧、音の太さって異常ですよね。 

長澤:レイ・ヴォーンはまず弦が太いですからね。しかし、弦だけではなく弾き方、成熟度によって音の厚みや太さが変わるのもギターの面白い点です。

--ジミヘンなんかは「腕や指が長くピックが入る角度が独特で、それによって太い音が出ていた」みたいな話は良く聞きますね。真似出来ない、、

長澤:そうそう(笑)そういうところまで気を配って表現出来ると凄く楽しいんでしょうね。少なくとも聴き分けられるだけでも、リスナーとしては十分楽しいものがあります。
 実は、最近はストラトが凄く好きなんですよ。アンプ・シュミレーターで音を作るとなるとストラトの音の幅広さがとても合いますし、音が前に出てくる印象がある。レスポールのギター自体が出す音は大好きですが、今の環境だとハムバッカーの音はどうしても引っ込んだ感じになってしまう。とはいえ、私の出発点はやはりレスポールですね。

--まさに原点。先ほど弦の太さ、ゲージに触れられていましたがレイ・ヴォーンとは逆にジミー・ペイジは非常に細い弦を張っていた事で知られます。小数点の世界ですが、そういった微妙な差で音が変わってしまうのもギターの面白い点ですよね。

長澤:ペイジが使っていたのは0.08~0.38のセット、アーニー・ボールの「スーパースリンキー」でしたね。ジェフ・ベックは少し変わっていて1弦から3弦はスーパーライト・ゲージ、4弦から6弦はライト・ゲージの弦を張っているんです。弦のゲージだけ見ても個性が見えてきます。

--ベックのゲージについては知りませんでした。奇遇にも僕は同じセッティングです(笑)

長澤:そうでしたか(笑)ペイジはテレキャスターからレスポールに変えたのも興味深い。彼はもともとテレキャスターが好きだったんですが、昔のテレはどうしてもノイズの問題がありましたからね。今はノイズ対策に関する技術が進んでいますが、当時はテレキャスターをマーシャルに繋いだ際のノイズは避けられなかった様で、周りの勧めもあり仕方なくレスポールにしていたらしいです。でも、レコーディングではやはりテレキャスターを使っていましたね。

--音響技術による事情が大きかったんですね。となると昔のテレキャスターって実はかなり音が太かったんですね。フェンダー・ジャパンのイメージも強いんでしょうが、現行品はやはりジャキジャキした細くて尖ったサウンドの印象です。

長澤:確かにそうですね。同じフェンダーでもUSA製、メキシコ製、日本製で音が全く違うのが面白い。以前、メキシコ製のものを弾かせてもらうタイミングがありましたが、凄く良い音だった。

--つい先日購入したジャズマスターがメキシコ製なんですが、既にお気に入りの一本です。

長澤:製品としての丁寧さ、精密さではやはり日本製の方が上ですが、音を出した時の感覚や迫力はメキシコ製の方が好きですね。作りは結構適当な事が多いので、オクターブ・チューニングがはどうしても合わなかったりする(笑)ストラトに関してもやはりメキシコ製の方が音が太かった。やや雑な仕上がりですが音に迫力があるメキシコ製、作りが丁寧で繊細な音の日本製、どちらも一長一短ですからあとは音楽性やシチュエーションによるのかと思います。

“MANIAC”なバンド、RUSH

--最後に、今年のパニカメのテーマである「マニアック」にちなみまして、長澤先生が「マニアック」だと思うミュージシャンについてお聞きしても宜しいでしょうか?

長澤:ギタリストで言うとマイク・ブルームフィールドはマニアックだと思いますね。どこまでもブルース にこだわり続けた人です、本当にブルース一筋。そういう意味ではスティーヴィー・レイ・ヴォーンなんかもマニアックですが、実は彼は音楽的には幅が広いんですよ。

--え、そうなんですか?意外です。

長澤:彼の名前が売れたのってデヴィッド・ボウイのバックバンドですから。『レッツ・ダンス』です、実はああいう事も出来る人だった。 
 今回は書かなかったんですが、「一番好きなバンド」となるとやはりカナダのラッシュですね。彼らの何が好きかというと音楽でもあり、かつ文学として捉えることも出来る点ですね。「文学的な表現」をしているミュージシャンは多く存在していますが、ラッシュの場合はコールリッジやヘミングウェイといった文学に直接繋がる。「ビニース・ビトゥイン&ビハインド(Beneath, Between & Behind)」という曲があるんですが、これはアメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンのゲティスバーグの演説を下敷きにしています。

--それは凄いです。

長澤:他にそんな事をしてるバンドなんて無かったので大学生の時から夢中でした。文学と音楽の結合点を追い続けているバンドですから、そういった意味ではマニアックです。日本では人気が無いかもしれませんが、アメリカではとても人気なんですよ、

--正直、あまり名前を聞かないですね。

長澤:ですよね(笑)若い人達から見た際に他の文脈との接点が無いバンドだと思います。
 ハード・ロック、プログレッシブ・ロック的な要素もあるけど、バラードも無ければラブソングも無い。そういうバンドなんですが、私は彼らの世界観が大好きですね。ギターのアレックス・ライフソンとベースのゲディ・リーは10代前半からの付き合いなので昔からの幼なじみがふざけてやる様な事を良くやっているんです。例えば、ステージ上でアンプの代わりに洗濯機を何台も積んでアンプに見せかけていた事もある(笑)ライブ中ずっとステージで洗濯機が回っているのを見て腹を抱えて笑いましたね。トリオだとステージが寂しくなってしまうのでそれに対する工夫でもあるんですけど、単純に面白かった(笑)

--面白すぎる(笑)良い意味で、ちょっとおバカなバンドですね。

長澤:そうなんです。そういうおバカな側面もあるけど、音楽的にはプログレで歌詞に関しては文学そのもの。そのギャップが凄く好きですね。 「ロック」というものに対する姿勢がマニアックだと思います。彼ら自身がロックを本当に好きなんでしょうね。ロックの魅力とは何なのか、ロックの何が好きなのか、ロックで何を表現出来るのか、そしてファンが何を求めているのかを考え尽くしているバンドです。

--なるほど。ある種メタ的にそういった点を理解してもなおビジネスとして割り切るのでなく、楽しんでいるのがとても魅力的です。賢いおバカ。

長澤:まさにそうですね、そう意味ではポストモダニズムなんですよ。でも、根本にはやはりロックへの愛がある。愛があり、知り尽くしているからこそ「ロック」の枠組みを少しずらす事も出来るんでしょうね。「勝つ事が出来るゲーム」に挑んでいる訳ではなく、あくまで「楽しむ事」に重きを置いている彼らの姿勢から学ぶ事は多いです。
 『70年代ロックとアメリカの風景:音楽で闘うということ』を書いていた際に頭にあったのは「現在の社会、自由主義的なルールを転覆させたい」という事でした。経済的な尺度に基づいて「勝ち負け」が決まってしまうルールの中でロックや文学というものを考えた際、「役に立つ」「役に立たなくても良い」というカテゴリーに入れられてしまった時点でルールに則ったものになってしまう。その「ルール」自体から離れる事が僕にとっての「闘い」でもあったんです。この本でロックや文学についての見方を変えたいと考えていました。日本のポストモダニズムは「ルール」を変える事で「自分が勝てるゲーム」にしようとしてきた。しかし、それは自分が勝つためのルールであって、周囲の人やそのゲームに負ける人を考えずに突き進むものですから、やはりそういった事はしたくない。「自分が勝つ」のではなく「みんなで勝つ」というルールがあっても良いはずですし、僕にとってのロックはそういうものなのかもしれません。

--貴重なお話をありがとうございます!『70年代ロックとアメリカの風景:音楽で闘うということ』を読んでいても感じた事ですが、本日のインタビューを通して長澤先生が持つ「ロック」や「音楽」への愛に改めて心を打たれました。正直、パニカメの企画という事を半ば忘れて本当に素晴らしい時間を過ごさせていただいたのですが、慶應英米の先輩でもあり、音楽・ギター好きの先輩でもある長澤先生にこうしてお話を伺えた事を大変光栄に思います。

長澤:我々は親子以上の年の差がありますが、音楽への愛、そして向き合い方や探究心という共通項でこんなに楽しくお話出来る事も音楽の本当に素晴らしい点だと改めて感じました。「音楽は歴史や時代を超える」と言われますけど、その凄さはこうやって実際にお話をすると実感しますね。同じもの、同じ方向を見てきた人達には壁が存在しないんです。編集が大変かも知れませんが宜しくお願いします(笑)

--頑張ります!!(笑)

(インタビュー・文字起こし・構成 4年榮光太郎)

Information

『70年代ロックとアメリカの風景:音楽で闘うということ』(小鳥遊書房)

小鳥遊書房HP: https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/200

Amazonリンク: http://www.amazon.co.jp/dp/4909812482

長澤唯史先生Twitterアカウント:https://twitter.com/Sonopap

長澤唯史先生プロフィール
1963年 静岡県清水市(現・静岡市清水区)生まれ/1986年 慶應義塾大学文学部卒業/1988年 同大学院文学研究科英米文学専攻修士課程修了/1990年 同博士課程中退/豊田工業高等専門学校等を経て、現在、椙山女学園大学国際コミュニケーション学部教授。専門はアメリカ文学、ポピュラー音楽研究。(共著)『日米映像文学は戦争をどう見たか』(2002年、金星堂)、『ヘミングウェイ大辞典』(2012年、勉誠出版)、『ブラック・ライブズ・マター 黒人たちの叛乱は何を問うのか』(2020年、河出書房新社)、(論文)”The Reception of American Science Fiction in Japan” (2016, Oxford Research Encyclopedia of Literature)他、多数
(小鳥遊書房HPより引用)

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