[名物企画]たつこた鼎談 ゲスト:佐藤光重氏

世界的米文学者の巽孝之氏、SF&ファンタジー評論家の小谷真理氏のお二人がゲストを招いて討議する名物企画「たつこた鼎談」。今回のゲストは巽ゼミを引き継がれた佐藤光重氏。 『Panic Americana』初代編集長の向山貴彦氏や先日発売された『脱領域・脱構築・脱半球』(小鳥遊書房)、そして「コスプレ」「川中島合戦戦国絵巻」「ポーの毛髪」と縦横無尽に繰り広げられた鼎談をご覧ください!!

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Before向山/After向山

巽:向山君がゼミに入ってきてから学生への接し方が少し変わった部分があるね。彼に出会う前は「自分が教えている学生を自分同様、大学院に行かせて、学者研究者の卵にしたい」という気持ちが強かった。でも彼の様な人を知っちゃうと「普通の学部生」と「院生予備軍」を根本的に分けて考える様になりましたね。それは向山君が作家志望だったからという訳ではなくて、学部生は学部生なりに英米文学を楽しむ方向性があって良いはずだと気がついたから。英米文学はあくまできっかけに過ぎない。それが研究活動ばかりじゃなくて、それが遊びやゲームや創作活動に繋がってもまったく構わないじゃないか、と。
 実際、今は映像プロデューサー西川朝子君や女優兼劇作家である千木良悠子君もいる。多種多様な人がいますけど、それでもOBOG会の出席率が高いのは嬉しい事ですね。そもそも、学校で習ったものはすぐ身に付いたり役に立つものではないんですよ。やはり10年20年という歳月が人文学には必要で「先生が言っていた事ってひょっとしてこういう事だったのかな」という実感が湧くのは時間がかかると思う。

佐藤:学問的なお話はもちろんですけど、先生方が何気なくお話してくださった雑談の様なものが不思議と後で思い出されるんですよね。その時は表面的にしか受け取ってなかったけれども、後々人生経験を経て思い出すと染みてくるものがありますね。 ちなみに巽ゼミのOBOG会には今年初めて参加させていただきますけど、懐かしい人もいらっしゃるそうですからオンライン越しにお顔を拝見した時に何かそういう学生時代の思い出がフラッシュバックしそうで凄く楽しみです。

佐藤光重氏

巽:そこにいる山口君がOBOG会の会長ですから、また楽しい会にしてくれるはずです。

–OBOGの皆様とお顔を合わせるのが楽しみになってきました!そんな長い歴史を持つ巽ゼミを佐藤先生は本年度から受け継がれましたが、現在のご心境をお伺いしてもよろしいでしょうか。

佐藤:重責はもちろん感じています。とは言え「自分に出来る事」をしっかりとやるしかないですから、焦らず生徒とよい人間関係を築いていきたいですね。4年生の皆さんに「巽先生の様な立派な人の後にこんな先生?」と思われるのはある意味怖いですけど、皆さん包容力がありますから。

巽:普通は逆でしょう(笑)

佐藤:各係の引き継ぎも非常に心配だったんですが、4年生が頑張ってくれてますからね。現3年生の中にも「パニカメの編集をやりたい」と言ってくれる人がいる事も非常に嬉しいです。

巽:ゼミ志望書にパニカメの事を書いてくる子が各学年に一人か二人は絶対いるんですよ。そういうやる気のある学生がいれば大丈夫。

佐藤:本当に有難い話です。実は合宿も不安でした。巽先生ご夫妻は別荘を持っていらっしゃりますから、例年その近くのペンションに学生が泊まっていた訳ですけど、それに近い事をどうしたら出来るかと。

大橋吉之輔伝

『エピソード -アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集』(トランスビュー)

巽:合宿に関連してだけど、君たちの大先輩である愛知教育大学教授の尾崎俊介氏がこの前出した本は読んだ?これはこの場を借りて広く宣伝したいですね。『エピソード -アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集』(トランスビュー)という本でね、この大橋吉之輔先生は私の前任者で日本アメリカ文学会の基礎を作った方です。東大の大橋健三郎先生と双璧を成して「両大橋」と呼ばれた巨匠ですよ。今、日本アメリカ文学会東京支部の月例会を慶應でやっているのは大橋先生と、その下にいた山本晶先生のおかげなんです。その大先生のエッセイを中心に編まれた本書は実質的に「大橋吉之輔伝」と呼んでもいいもので、大橋先生のエッセイの合間に尾崎氏の絶妙な解説的文章が挟まれているんです。これを読めば私以前の時代の本塾アメリカ文学専攻がよくわかるはず。

佐藤:非常に運転がお好きな方だったと聞きますね。健三郎さんは無類のお酒好きで、吉之輔さんは運転という事で「Drinking 大橋」と「Driving 大橋」の「両大橋」だと。大学院での授業が終わると教え子たちの家まで自分の運転で送っていたという逸話もお聞きした事があります。

巽:今はコロナだから車でキャンパスに来ている人も多いですけど、そもそも昔は車通勤は少なかったかもしれないね。でも、昔の先生っていうのは良いですよ。気の向くまま授業直前に内容を決めて、CANVASなんかで授業を用意しなくていい訳ですから(笑)

佐藤:でも、巽先生はもともと現代風の教授スタイルですよね。初めて先生の授業を受けさせていただいた時は1回目の授業で提示されたシラバスが細かく書かれていて本当に驚きましたよ。今は普通の話ですけど、当時は珍しかったように思います。

巽:それはアメリカ式だね、最初から授業計画を決めて生徒に提示するのよ。留学から帰って、今後アメリカ留学する学生が違和感を覚えないように教育しようと思ったんだ。

佐藤: 衝撃的でしたね。巽先生は30代の中頃だったと思いますが、若い頃から本当に先見の明がありますね。

失われた合宿

巽:ちなみに『エピソード -アメリカ文学者 大橋吉之輔エッセイ集』を読んで初めて知ったんだけど、大橋ゼミが合宿してたのは蓼科だったんだよね。私のゼミ合宿は八ヶ岳だったから、ほとんど地続きだ。

佐藤:それは驚きですね。勉強もするけど、くだらない話もたくさん出来る。ああいう合宿の様な場所をどうにか学生に提供してあげたいんですけど、コロナ禍の今は難しい。

小谷:学生さんっていうのは合宿を通して仲良くなる傾向がありますよね。

佐藤:確かに楽しかったですね。「オンライン発表合宿」というのを今年はしましたが、どうしてもあの雰囲気は味わってもらえないですからね。コロナが収束した暁には、あの時間を取り戻してあげたいです。

巽:やっぱり、合宿が大学生活の華ですからね。

–我々は結局その華を経験せずに卒業しそうなんですが、、(笑)
–卒業した後でも遊びに行って良いですか?

巽:もちろん!歓迎しますよ。

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