[ゼミ生企画]巽先生との思い出

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安原瑛治さん(巽ゼミ27期)

 いまでも印象に残っているのが、恵比寿にある巽先生のご自宅に伺い、卒論の指導をしていただいたときのことです。なにしろ論文を書くのは初めてでしたし、「卒論指導」という言葉がいかめしく聞こえ、当時の私は緊張していました。しかしいざご自宅に着いてみると、なぜかテレビでケビン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』がエンドレスで流れていて、さらにはコーヒーまで淹れていただき、そこには予想だにしない温かい雰囲気がありました。

 コーヒーをすすりながら、大学院ではラテンアメリカ文学を研究したいんです、と私がいうと、先生は、こともなげに、チリの作家ホセ・ドノーソはむかしアイオワ大で教えていて、そこでカート・ヴォネガットと知り合って……と数珠つなぎのように世界中の文学にまつわるアネクドートを開陳されました。優れた研究者とは世界ぜんたいに好奇心をもつひとなのだとは、そのときに気づいたことです。「どうして卒論は五十頁以上書かなきゃいけないんですか」という私の質問に対する、「それ以下だと製本したときに自立しないからね」という先生の回答にはいまだに納得していませんが、そうした愛嬌も先生の魅力なのだと思います。

巽先生の書庫

 布施谷哲さん(巽ゼミ31期)

 卒業を間近に控えた四年生の三月、巽先生は私たちゼミ生を八ヶ岳にある先生の別荘に招いてくださいました。私にとって最も大切な巽先生との思い出です。

 雰囲気のあるコテージでの宿泊や夜に突如振り出した大雪、牧場の牛たちとの出会いなど非日常的なことが沢山ありましたが、夕食後に先生が聞かせてくださったピアノには感動しました。難しそうなジャズをさらっと弾く姿は格好良すぎましたし、しかも即興であれだけのパフォーマンスができるとは! 先生にできないことはないのではないかと思いました。そして、先生の別荘の地下書庫もまた圧巻でした。幅広いジャンルの多種多様な本が並んでおり、これぞ大学教授の本棚という感じ。あれも一部にすぎないのかもしれませんが、先生の知識の源のひとつを垣間見た気がしました。

 コロナ禍での二年間、イベントや課外活動が規制されてきた中で、ゼミの同期や先生と最後にかけがえのない経験ができて良かったです。巽先生、素敵な時間をありがとうございました。

巽先生の別荘にて

青山ひかり(巽ゼミ31期)

先生と私の出会いは専攻ガイダンスだった。

「英米は本当にエグいのか」という話題で先生方が口々に「そんなことはない、しっかりやっていれば大丈夫」とおっしゃる中、ある先生だけは「えぐいくらいじゃないとつまらないでしょう」とおっしゃったことを鮮明に覚えている。

「なんとなく英米の話も聞いておこうかな」くらいの気持ちの学生はこれで怖気づいてしまったかもしれない。だが私はすでに英米に進むと決めていたこともあり、その言葉を聞いて「かっこいい!やっぱり英米に進みたい!」と感化された。思えばこの時から先生のファンだったのかもしれない。

当時の私は先生方の顔と名前が一致していなかったが、のちにあれは巽先生だったとわかった。

佐藤先生と巽先生とのスリーショット

米文学史の授業を通して先生のエレガントさ、優しさ、面白さに触れた私はゼミ選びの際、入学当初からやろうと思っていたシェイクスピアではなく巽先生を選んだ。

ゼミ代表になり先生にあらゆる雑用を頼まれる気満々だった私にとって、オンライン授業で先生との接点が減ってしまったことは少々心残りだが、それでもなんとか先生の最後のゼミ生になれて幸運だったと今でも思っている。

巽ゼミ最後の代であり、佐藤ゼミ最初の代である31期同期

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