[小谷真理氏エッセイ]PCの発達は、マニアを作り出す。

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 この秋、 10冊目の単著を出した。タイトルは、『性差事変』(「ジェンダーじへん」と発音する)。平成期に書いた論考&エッセイ27篇を収録している。前回の著書は2010年に刊行された『リス子のSF時々介護日記』(以文社)だから、実に11年ぶりの単著刊行となった。
別にサボっていたわけではない。この14年介護の絶頂期にあたっていて、本の出版どころじゃなかったんだよね。ハハハ。

親がそんなわけだったので、体力を大幅に介護に取られて、あとは目先の仕事をこなすのが精一杯。気がついてみたら、光陰矢のごとし。14年は長い。11年もかなり長い。正直こんなに時間を取られるとは思ってなかったので、色々準備が足りなかった。

私の文章は、若い時からそれほど変化がないタイプなので、少々ペースがスローになったところで、質的変化は見られない。でも全体的に遅くなった。 

しかし、実はこの期間にもっと恐ろしいことが起こっていたのである。

若い時からワープロやPCを使って執筆していたのだが、その進化のスピードが目覚ましく速かった、ということなのだ。そう。あのバージョンアップという恐怖の階段上進化が、今回の本作りには深く関わっていたのだ。
このPCの発達に関する愚痴を、Facebookで、長々と吐き出していたら、友人たちから何やら私がものすごいマニアのように褒められた。単に呆れられただけかもしれないが。彼らの誉めようを聞いていると、マニアのマニアたるゆえんは凝り性とかそういうのではなくて、粘着オタク気質みたいな意味合いを持つ。

なので、その記録を補足しながら再録する。

前段階としては、こうだった。<現代思想>や<ユリイカ>で注文に応じては執筆していた私の原稿は膨大な量に登ったため、版元さんが気を効かせてそれをまとめようと、はるか昔の原稿まで探し出して、入稿まえの状態で持っていらしたのであった。そのままソッコーでゲラにすればよかったのだが、他の著作にすでに収録して重複する文章もあったため、目次を作りながら、それらを差し替えよう、と考えたのである。
で、早速外付けハードディスクから原稿を取り出そうとしたら、なんと!  今風のMacでは読み込めない、ということがわかった。OSが古くアプリも古い時代に作った原稿を、新しいMacは読んでくれないのだ!  

えええええっ??  これどーするの?  と焦った時点から以下の記録になる。

【Mac地獄めぐり 愚痴と自慢】

 2020年だったか、1990年代のデータが入っている外付けハードディスク(大事をとって二台ある)を開けたら、アップルワークスで作ったファイルが全面的に開けられなくなっていた。他のアプリを試したが、MacのPagesも新しいバージョンでは開けられなくなっていた。なんでアップルワークスかというと、その前のクラリスワークスで作ったファイルを全面変換していたからなのだ。初期のMacはMS-Wordと相性が悪かったため、当時駆け出しの物書きだった私は、とにかく安定したクラリスを使って延々と原稿を書いていたのである。
 じゃあ、古いMac使ってみるか、というわけで、家中に残存しているMacを片端から試したが、バージョンが合わないか、開けられてもドロップボックスに対応しないほど古かったりするかで、全然ラチがあかない。膨大にある私の古い原稿はどうしたらいいんでしょうか。ガチョーン、という感じであった。
 その時は、記憶でなんとかするべ、と思って一旦放置して忘れ果てていたのだが、今年に入って、いろいろ企画が立ち上がり、古いデータが必要になる仕事が入ってしまった。(註 はい、これが『性差事変』のことなんですね)
活動フィールドがSFであるせいか、私の原稿は古びるのがめっちゃ遅い。その上、フェミニズム関係である。これが何を意味するか。

 性差ギャップ世界ランキング120位の日本は、世間的なフェミニズム理解がこれまた時間が止まってているかと思うほど遅い。国の舵取りやってる政治家がしょっちゅう性差別的な発言でミスるような国では、昔の原稿もそのままネタとして使えてしまうのである。そうなのだ。フェミニズム理論をやっていると、私は常に近未来人なのである。
そんなわけで、昔の原稿がそのまま、あるいは改稿用に必要とされることも多々あるのだ。
これは教訓である。つまり昔の原稿はいつでもデータベースとして呼び出せるようにしておかなければならない。けど、時間貧乏な私は、ずーっとそれをサボってきたのである。しかし、もうこれは覚悟を決めるしかない。

ということで、うちに残っていたMacや古いアプリを全てかき集め、片端から試しつつ、ウェブを調べたところ、MacOX10.6であれば、アップルワークスと古いPagesに対応することがわかった。つまり、アップルワークスのファイルを、古いバージョンのPagesに一旦変換し、次に新しいバージョンに一括再変換すれば、現代に追いつける、という段取りでいけそうだった。

で、家中のMac試しました結果がこれ。

  • ・Powerbook G4 二台 →OS9が入っている貴重なものなので、これはいじれない。(例えば、佐藤嗣麻子監督の制作した萩尾望都CD-ROM作品集『sanctus/聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな』は、OS9でないと読み込めないからだ)。そして、もう片方は、久々に電源入れたら動かなかった。
  • ・Macbook(白) → OX10.4 が入っているので、 バージョンを上げるか? Snow Reopard(OX10.6のDVD)は一枚残っていたので試せそうだけど。しかし、やってみたら、ハードウエアに対応していなかった。
  • ・Macbook Air 二台→10.7以降なので、これはダメ。アプリに対して新しすぎる。
  • ・iMAc二台も10.7以降なので、同じ理由でダメ。

ガタガタ引っ掻き回していたら巽センセイが、MacPlusがあるよ~とか、iMacG4もあるよ、と自らの物持ちの良さを自慢するのだが、そ、そこまで戻らんでもいいがですぅ。

OS9ですら前すぎて、ダメなんでございますぅ。

戻るのは80年代じゃなくて、90年代末なのでございますぅ。

そうこうするうちに、最後に残ったのがMacbook pro 2010年半ば発売機種である。だが、それは壊れていた。
あれは、2016年頃のこと。Macは安定していた10.6から10.7へ激変し、ウチもそれに合わせて10.6を2段階に分けて10.11まで上げたら、むぎゃ~という感じで、マウス部分がいきなり盛り上がり、作動を受け付けなくなってしまったのだ。とりあえず機械に強いアシスタントのYasukoさんに預けたものの、彼女も忙しくてそのまま戻ってきてしまった、という経緯があった。
電源入れてみたら、もちろんバッテリーは効かなくなっていた。しかし、ACアダプタを差し込むと作動はする。マウス部分だけの問題なら、外付けのマウス使えばいいんじゃね?。

ということで、早速密林で770円のマウスをポチりました。

で、つけて動かしたら、動くけど、えらく反応が遅い。クリックするたびに、虹色の玉が出てきてグルグルするんだよね。

ということは、バージョンが10.11と上げすぎているから、具合が悪いんじゃないだろうか。

出荷当時の10.6に戻せば、イケるんじゃなかろうか。

とりあえず、このグルグルを治すには、メモリを2G×2を4G×2に付け替えればいいか。

などと走馬灯のようにフローチャートが脳内をまわり始め、ここで俄然面白くなってしまった私は、ウェブを調べてから、いくつかのサジェスチョン通り、後ろのカバーを外してみた。すると、バッテリーがブクブクに変形していることがわかった。多分そのせいでマウス部が押されて、外に盛り出てきてしまったらしい。そこで、早速密林でバッテリーをチェックしたところ、なんと似たような症状があった方の丁寧な口コミを発見。それには、バッテリーを付け替える時にマウス部も直せた、と書いてあった。

いやー、こりゃウェブ時代っていいなあーと思いながら、同じバッテリー(5990円)とついでにメモリ二枚(セットで4200円)も注文。

モノは即日には入ってこなかったので、仕事の最中、ジリジリしながら待つ。それでも、ウェブ通販時代のありがたいところは割にすぐ配達されること。これが昔だったら、秋葉原とかに捜索に行ったりするわけだよね。さて、着くや否や、作業開始! と言いたいところだが、なにせ耄碌して老眼がひどいので、まずはクリップライトを設置して、あたりを片付け、柔軟体操をしてから、深呼吸して、いざ作業開始。

無事バッテリーを外し、マウス部分の留め金も外して、ペンチで形を整え付け替え、メモリを取り替えた。(註 ここまでの作業で、決意してから約二週間が過ぎている。)

で、スタートしたところ、まだグルグルはしているものの、なんとか修復OSを呼び出すところまでこぎつけた。(これは再起動の後、Command+Rで呼び出せるものだが、なぜかこのMacbookの場合、Shift+Option+Commond+Rでないと呼び出せなかった。この裏技を求めてウェブを探し回る事になったのだが、その経緯は長くなるので、省略する)
で、First Aidを試したり、OSを入れ直したりといったことを試したが、Macbookに入っている10.11がどいてくれなくて(泣)、出荷の状態にはなかなか戻せなかった。

うーむ。

いろいろ考えた上、TimeMachineのDataが入っている、古いAir Macをまだ取り外してなかったことを思い出した。早速古いAir Macを起動して、そっちに接続して調べたところ、なんと! 2015年当時、つまり10.11になる前のデータがそのまま残っていることを発見した。うわー、2015年ってこんなことを書いていたのか、とちょっと感動する。
で、早速修復OSを立ち上げて、まず古いHDを消去しようとしたが、今度はウェブに書いてある通りでは立ち行かない。再び、ウェブを彷徨って、裏技を探したりして、いろいろ試したりした末に、ついにHDを消去。その後、TimeMachineに残っていた10.6のデータを入れた。
データを入れ終わるのに、15時間ほどかかった。まあ、書き換えてんだから時間かかるよねー。

やっと終わって再起動したら、パスワードを入れろという。

いつものパスワードを入れても違っている、といって動かないMacbook 君。

もーアンタ、ヤダァ~。

嘆いてもしょうがないので、アイスを食べてYouTubeユーチューブで、拾った子猫を風呂に入れる動画を数本見てから、気を取り直してから再びウェブをうろついていたら、機種によってAppleIDのパスワードじゃないと開かないことがあるというコメ発見。

やってみた。

おおおおおおお~。あーいーたー! 

そこに現れたのは、まさしく10.6のかつて見慣れた画面。なつかしー。
というか、2015年に、私はこんなことをしていたのか! (荒巻義雄論集成の書きかけが…)

そして、グルグルも無くなって、今や Macbook proは調子よく動くようになったのだった。この子がまた具合が悪くならないうちに、早速昔買ったiwork’08を入れる。Pagesも問題なく作動した。万歳!

いやー、長かった。
というか、なんなんだよ、このクソゲームみたいな道ノリは! 
毎日延々夜中に作業したり調べたりし続けて三週間。

がまぁ、ともあれ、これで古いデータを変換できる用意が整った。(つまり、肝心な作業は、まさにこれからなのだった! うへー! )

 Facebookの愚痴はここで終わっている。結果的に、差し替え原稿は全てこの古いハードディスクから引っ張り出すことができたのである。
PCの発達は人類の発展の証拠のように喜ばしく語られるけれど、果たしてそうなんだろうか? 新しくなっても、古いデータを読み込めなきゃ、PCを使う意味はないんじゃないのか。と色々思うところはある。

しかし、これだけは言える。PCの進化は、確実にマニアを増やしている。
人類はますますマニアックにされている。それだけは確かだ。

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